サポーターズコラム

日本に必要なのは「トライ」できる環境 1億の出資をけった起業家がみた現状と課題(合同会社Genkei 加藤 大直CEO)【festivo起業家インタビュー】
一歩先行く先輩起業家、事業家や特異な視点をもつ起業家の今を切り出すインタビュー企画、festivo起業家インタビュー『Our life is our flame.-情熱に生きる僕らの今-』。今回は3Dプリンターを開発・製造・販売する合同会社Genkei 加藤 大直CEOに登場していただきました。
6年のNY生活から帰国し、起業した加藤氏。日本で目の当たりした起業環境の問題点とは?
デザインからハードウェアの世界へ。
日本文化という壁にぶつかりながらの起業
もともとはニューヨークの大学でプロダクトデザインを専攻していました。卒業後は現地の建築オフィスに就職。帰国後は「RepRap」という3Dプリンターのコミュニティの日本支部を共同創設しました。在学中、3Dプリンターを知って「これ面白いじゃん!」と思っていたのがきっかけです。
事業としては、当初、副業レベルでランディングする予定でした。3Dプリンターを作って、2〜3台売れればオッケーという感じで。それが、テレビに出てしまい、雑誌に出てしまい……。NHKに出演したのが大きかったですね。テレビ出演後、いろいろなところから電話がありました。
ちょうどRepRapのコミュニティを日本ではじめた数ヶ月後に、クリスアンダーソンの『メイカーズ』が出たんです。中身を見てみると、大学で嫌というほど習った内容でした。当時、そういう流れがあったんですね。
その後は苦労の連続です。日本だけを指しているわけではありませんが、国によって各々の文化があるわけで、それはビジネスにおいても同様です。そのうえで日本は、ビジネスに入るまで多くのプロセスを踏まなければならない国だな、と。逆に、ボクが日本人でなかったほうがスムーズにいっていたと思います。
やっぱり、会社って人じゃないですか。人というくくりで考えると、営業も開発も経営統括もすべて人が動かしていて、日本の会社の場合、ほとんど“日本人”なんですよ。日本社会、日本文化なんです。
しゃべる内容だったり、あいさつとか、マナーとか。「それってあたり前じゃん!」と思われるかもしれませんが、海外ではもっとビジネス直球です。無駄がない。挨拶代りに軽い雑談をすることはありますが、その程度です。
それが日本の場合、本腰を入れたビジネスの話になる前に、一定のプロセスを踏まなければならない。「あとメール何回したら書類のやり取りをして」みたいな。
近年のクラウドソーシングでも同じ手法ですが、ハードウェアでもソフトウェアでもとりあえず作ってみ投げてみて反応をみてブラッシュアップして、といったように作ったらとりあえず世に出してみればいいじゃんというのが無く、社会的責任があるから商機を考えよう、という流れが深く根刺さっているなと感じました。
「購買化」する日本のクラウドファンディング事情
クラウドファンディングの話で言うと、あれは体としては「投資」になりますが、本来であれば、「投資してあげるからこっちでフィードバック(意見)するよ」というように、投資家から意見をもらえる仕組みなんです。そうすることでβ版に進めます。米国のクラウドファンディングサービス最大手のKickstarterの場合も、購買ではなく、アイデアや制作者を育てるための媒体なんです。
Kickstarterのコメント欄とメッセージ。それがプロジェクトにとって一番の財産になります。なかには本物のプロフェッショナルが紛れていて、「通電テストをしてみたけど、ここが欠落していたよ」とアドバイスしてくれる。それが一番大切なんです。やっぱり、チーム2人だけでやっているより、1000人の意見を聞いたほうが良い物ができますよね。
しかし、日本のクラウドファンディングは「購買」になってしまっている。「こっちは消費者なんだから、もちろんプロ並みのものを提供してくれるんだよね?」というようなプレッシャーがあるんです。日本特有の陰湿なイヤミが含まれているように感じられます。
Kickstarterもたびたびレギュレーションを変えて、「購買はダメ!」という施策もしていますが、全体的に「作ったので投資してほしい」という風潮が根強くある。
海外の場合は、よっぽどクオリティが低くなければお金をだしてしてもらえます。日本では考えられません。
「とりあえずお金入れますよ」で投資不信に
話を事業に戻すと、当初は自転車操業でした。1個売ったらそのお金で2台作って。それをまた売って、4台作って。今考えたら本当によくそんなことしていたなと思いますが、なんとか今日までやっています。
ボクたちは、大きなファンドとか、それこそ有名なエンジェル投資家さんなどからも資金援助を受けていません。なぜかと言うと、いろいろなメディアに出て有名になると、騙そうと甘い話を持ちかける人が増えたんです。「事業にジョインさせてくれ」とかですね。
大手ファンドから投資の話もありました。何も知らないところからスタートしていたのに、ある日とつぜん「とりあえず1億入れますよ」、とアプローチが。何に1億入れるのかもわかりませんでしたけど。
当時は投資についてほとんど知らなかったんです。しかし、投資活動をすることによって何が行われるかということは予想できました。やっぱり、お金を入れてもらうからには、大きくして還元しなければならないわけですよね。
ただ還元するにあたって、これまで100台売っていたものを1万台売ればいいかというと、たぶんそうじゃない。100万台なら話は別ですけどね。
ボクたちの5カ年計画を知っていて投資する、というならまだわかるのですが。逆にそう言ってくれたら信用できたかもしれません。「こうこうこうなったら投資させてください」、と。ロジックが通りますので。
個人用3Dプリンター黎明期に、ちゃんとしたロジックもなく、ただ新しいから投資したいという方も多くまぎれていて……。そういった方々が、大手から中小まで、いっきに数十件きましたそれで、投資不信になってしまいました。
それでも、方向性は間違っていないと確信
その数ヶ月後ぐらいから、時間を経て、いろいろな人たちと知り合い、しっかりとした投資活動の図式がわかるようになってきました。
ただその翌年、熱意のある人がいて、一緒にやろうかという流れがあったのですが、丸で信用を壊される形にされてしまい……。結局、尾を引かないように大人の対応で事なきを得ました。それが理由で、現在も合同会社のままです。
最近では、世界最大の3Dプリンターや新機構などを作ったりしていて、アカデミックな人たちとの連携も強めています。ありがたいことに、向こうからもアプローチしてくれるようになりました。方向性は間違っていなかったと認識しています。
現在は資金は入れないまま3期目です。これからはハードハードしているものではなく、ハードとデザイン、ソフトウェアの融合を画策しています。今後は、これまで得た経験や知識を生かし、大きく動ければと思っています。
知覚できないものを知覚したい。
造物主的な価値観に近いところにいたい。
ボクはもともと宇宙に興味をもっていて。でも、宇宙に行きたいというのではなく、何らかの真理があるかもしれない場所について知りたいんです。
人間の遺伝子にはエクスプロアー、つまり探求する遺伝子が組み込まれていると思います。そうじゃないと、セックスもしないし個性も生まれないし、そもそも種も連鎖しない。だから常に何かを探している。
ボクがもし魔法にかけられて、「ここのベッドでずーっと何もしないで寝転んでいたら宇宙の終わりまで見れる」と言われれば、ボクは喜んで寝ていますね。何が起こるのか知りたい。何億年かかるのかわかりませんけど。造物主的な価値観に近いところにいたいんです。
不思議な感じがするじゃないですか。昔はiPhoneもなければ携帯もない。でも今はiPhoneはもちろん、ウェアラブルも出てきて、いずれはインプラントになるかもしれない。そういうところまで、人間の伸び代があるのであれば、たぶん何かしら垣間見れるのではなかろうか、と。
そういった未知、地球上だけでなく地球外の未知の部分。多次元であったり、インターステラであったりするわけですが。ボクは、自分が知覚できないものを知覚したいんですよ、たぶん。それが起業の、そして3Dプリンターに携わっている理由です。
起業家へのアドバイス? 寝なきゃいいんじゃないですか。覚悟として。ボクは寝てないように思われていますが、実は寝てるんですよ。結構。ただ、それ以外はすべて仕事です。
【おまけ企画】起業家の一日ウォッチング
「加藤 大直さん」の一日
一日の流れとしては、仕事して、開発、ミーティング、処理、メイクメイクメイクです。実際に手を動かしている時間は少ないですが、あーでもないこーでもないと模索したりしていて。寝て起きて、またそのくり返しです。規則正しく思われますが、規則正しい生活ではありません。予定に合わせて起きる時間は異なり、潮時のときは平気で48時間やり続けています。最近心がけているのは、不用意なミーティングを避けること。つまり会う人の選別です。ただ、起業当初は選別できませんよね。広がるだけの出会い、存在を知らしめるだけの会合もありますし、新しい意見を聞くことも必要です。
【起業家プロフィール】合同会社Genkei 共同代表 加藤 大直 氏
Genkei 共同代表 兼 RepRap Community Japan 代表、New York Parsons美術大学BFA卒業。大学卒業後現地にてプロダクト/インテリアデザイナーとして従事。帰国後RepRap Community Japan共同創設。その後Genkeiを共同創業、国内初の組立てられる3Dプリンターatom発表や、組立てワークショップを全国開催し日本における個人用3Dプリンター導入の先駆となる。現在は、コンセプトを主としたプロダクトデザイン活動から人間の六感とデジタルを融合させる研究、製作活動を行っている。
Genkeiは3Dプリンターの開発から次世代のテクノロジーとデザインを合わせた新しい事業を提供しております。今あるものではなくこれからの時代が必要としているものをハードからソフトまで皆様に提案し続けます。
(編集:山中 勇樹)
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